
コードを書くたびに検索している。レビューで指摘されると、「やっぱり自分はダメだ」と落ち込む。周りの人はみんな優秀に見えて、自分だけが分かっていないような気がする。
エンジニアやプログラマー、Web制作のコーダーとして働いていると、「自分はこの仕事に向いていないのでは」と感じる瞬間が何度も訪れます。経験を積んでも、その感覚がなかなか消えないという人も少なくありません。
この記事では、そうした気持ちの背景にある「インポスター症候群」という考え方と、エンジニアがこの感覚に陥りやすい理由、そして上手に付き合っていくための方法を紹介します。
この記事の目次
インポスター症候群とは
インポスター症候群とは、周りから評価されているにもかかわらず、「自分は実力がないのに、たまたまうまくいっているだけだ」「いつか本当の実力がばれてしまう」と感じてしまう心理的な傾向のことです。インポスター(impostor)は、英語で「詐称者」「偽者」という意味です。
1978年に、アメリカの心理学者であるポーリン・クランスとスザンヌ・アイムスが、高い成果を上げている女性たちに共通して見られる傾向として、「インポスター現象(impostor phenomenon)」という名前で論文に発表したのが始まりとされています。その後の研究や議論を通じて、性別や職業に関係なく、多くの人が経験するものだと考えられるようになりました。
なお、インポスター症候群は病気ではなく、医学的な診断名でもありません。「そういう心の動きがある」ということを知っておくだけでも、自分の気持ちを客観的に見やすくなります。
エンジニア・プログラマーが陥りやすい理由
知らないことが無限にある
開発や制作の分野は範囲がとても広く、どれだけ学んでも知らないことが必ず出てきます。「知らないことがある=実力が足りない」と考えてしまうと、いつまでたっても自信を持てません。
調べながら書くのが当たり前
現場のエンジニアの多くは、ドキュメントを読んだり、検索したりしながらコードを書いています。それなのに、「本当にできる人は何も見ずに書ける」と思い込んでしまうと、調べるたびに自分の力不足を感じてしまいます。
他人のコードは「完成品」しか見えない
同僚のきれいなコードやオープンソースのコードを見ると、自分との差に落ち込むことがあります。ただ、目にしているのは何度も書き直され、レビューを経た完成品です。そこに至るまでの試行錯誤は見えていません。
レビューで毎回指摘を受ける
コードレビューは、品質を上げるための仕組みです。それでも、毎回たくさんの指摘を受けると、自分自身を否定されたように感じてしまうことがあります。
できることが「当たり前」に感じてしまう
一度できるようになったことは、自分にとっては簡単に感じられます。そのため、「こんなことは誰でもできる」と自分の成長を低く見積もってしまいがちです。
「向いていない」と感じたときに考えたいこと
調べながら書くのは、立派なスキル
必要な情報を素早く探し、正しいかどうかを判断して使うことは、エンジニアにとって大切なスキルです。何も見ずに書けることより、正しく調べられることのほうが、実務ではずっと役に立ちます。
質問できるのも、能力の一つ
分からないことを抱え込んで時間を使うより、早めに質問して解決するほうが、チーム全体にとってはプラスです。「こんなことを聞いたら、できないと思われる」と心配になるかもしれませんが、要点を整理して質問できる人は、むしろ信頼されることも多いものです。
レビューの指摘は、人ではなくコードへのもの
レビューでの指摘は、あなた自身への評価ではありません。コードをより良くするための提案です。指摘の数が多いのは、それだけ丁寧に見てもらえているということでもあります。
比べる相手は「過去の自分」
他の人と比べ始めると、上には上がいるので、きりがありません。比べるなら、1年前の自分と比べてみてください。当時は分からなかったことが、今は自然にできているはずです。
自信を取り戻すための具体的な方法
「できるようになったことリスト」を作る
仕事でできたこと、解決できた問題、新しく覚えたことを、短くメモしておきましょう。
落ち込んだときに見返すと、自分が着実に前に進んでいることを確認できます。評価面談や転職活動のときにも、そのまま役に立ちます。
完璧を目指しすぎない
最初から完璧なコードを書こうとすると、なかなか手が進まず、さらに自信をなくしてしまいます。まずは動くものを作り、レビューや見直しを通じて良くしていけばいい、と考えるだけでも気持ちが楽になります。
信頼できる人に話してみる
同じ悩みを、実は多くの人が抱えています。信頼できる先輩や同僚に「自分は向いていないんじゃないかと思うことがある」と話してみると、「自分もそう思っていた」と返ってくることが意外と多いものです。
得意なことに目を向ける
エンジニアの仕事は、コードを書くことだけではありません。丁寧なドキュメントを書ける、デザイナーやお客様との調整が得意、バグの原因を粘り強く追いかけられる。そうした強みも、チームにとっては大きな価値です。
環境が合っていない可能性も考える
「向いていない」と感じる原因が、あなた自身ではなく環境にあることもあります。
- 質問しにくい雰囲気で、分からないことを聞ける相手がいない
- 教育や引き継ぎがないまま、難しい仕事を任されている
- ミスをすると、人格を否定するような言い方で責められる
- 常に人手が足りず、学ぶ余裕がまったくない
こうした環境で自信をなくしてしまうのは、当然のことです。部署や職場を変えたことで、本来の力を発揮できるようになったという人もいます。「向いていない」と結論を出す前に、「この環境が合っていないだけかもしれない」と考えてみてください。
つらさが続くときは専門家へ
社内に産業医や相談窓口があれば、まずはそこに相談してみましょう。社外では心療内科や精神科などの医療機関のほか、厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」で、電話・SNS・メールの相談窓口やセルフケアの情報が紹介されています。
よくある質問
経験を積めば、この感覚はなくなりますか?
経験を積むことで和らぐことはありますが、完全になくなるとは限りません。むしろ、知識が増えるほど「知らないことの多さ」にも気づくため、ベテランになってもこの感覚を持ち続ける人はいます。大切なのは、感覚をなくすことより、「またこの気持ちが来たな」と気づいて、振り回されすぎないことです。
本当に向いていない場合は、どう判断すればいいですか?
一つの目安は、「時間をかければ理解できるか」と「この仕事のどこかに面白さを感じるか」です。時間はかかっても少しずつ分かるようになっていて、うまく動いたときにうれしいと感じるなら、向いていないと結論を出すのはまだ早いでしょう。どうしても判断がつかないときは、職場や担当する分野を変えてみてから考えても遅くはありません。
未経験から転職したばかりで、毎日つらいです
未経験からエンジニアになった直後は、分からないことだらけで当然です。周りと比べて焦るのではなく、「先月より分かることが増えたか」に目を向けてみてください。教えてもらえる環境があるなら、遠慮せずに質問しましょう。質問しにくい環境なら、それは本人ではなく職場の課題です。
まとめ:「分からない」は、成長の途中にいる証拠
「自分はエンジニアに向いていない」と感じるのは、決して珍しいことではありません。
- インポスター症候群は、多くの人が経験する心の動き
- 調べながら書くこと、質問することは、立派なスキル
- レビューの指摘は、人ではなくコードに向けたもの
- 比べる相手は、他人ではなく過去の自分
- 環境が合っていないだけ、という可能性もある
知らないことに出会い続けるのは、この仕事を続けている限り当たり前のことです。「分からない」と感じるのは、あなたが今も成長の途中にいる証拠です。自分を責めすぎず、できるようになったことにも目を向けてあげてください。
